非城識人ノート

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西股総生著『パーツから考える戦国期城郭論』(ワン・パブリッシング、2021)

西股総生著『パーツから考える戦国期城郭論』(ワン・パブリッシング、2021)読了。
戦国時代の城郭を構成する、空堀・土塁・切岸・虎口・曲輪などのパーツを個別に取り上げ、形態や機能とその変化について、実戦での使用にも即して解説する1冊。

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西股総生著『パーツから考える戦国期城郭論』(ワン・パブリッシング、2021)

概要と感想

 本書では、「曲輪」「虎口」「土塁」「空堀」といった城を構成する部品について個別に解説を行い、それぞれが合戦の場面でどのように機能したのか、また歴史的にどういった変化をしたのかを考察している。こうした城郭用語について、個別に詳細に解説されたものは多くはないだろう。またそれぞれのパーツの観察の仕方についても、「観察の極意」というコーナーを設けて解説を加えている。こちらでは特に、城郭が立体構造物であることを強調されており、平面投影された縄張図・実測図のみではわからない、現地での観察の重要性を説く。
 また馬出に関しては、武田氏系の丸馬出が堡塁からの進化、北条氏系の角馬出は帯曲輪からの進化として推定しており、一つのパーツをとっても、異なる経緯で発達したものもある点が非常に興味深い。
 天守の項では、戦闘施設としての天守の役割を論じており、占地(山城・平城)と天守の規模の関係性について、軍事的側面から解説されており、納得するところがあった。
 最後に、上総国坂田城を事例に、戦国期国衆井田氏の軍事力編成が坂田城の構造にどのように対応しているかを確認し、城の縄張が、現実の大名・国衆の軍事力に即して設計されたものであったことを明らかにしている。

気になったところ

 本書では、それぞれのパーツが、単純→複雑という単線的な進化を遂げたわけではなく、大名や地域・時代・地形などの様々な要因によって異なる対応・適応をとり変化を遂げている様相を明らかにしている。しかし、本書の中で筆者はそれらの変化を「進化」と表現している箇所もみられる。本書ではパーツを個別に解説することが特徴であるが、ここで解説されている内容がどの地域においても一般化できうるものなのか。地質・地形や大名・国衆の軍事力編成など、地域ごとの特性を見落としてしまう。本書では、主に東国の城郭を中心に取り上げられて解説がなされているため、東国城郭におけるパーツの変遷を明らかにしているものといえよう。個人的には、日本列島各地の地域性についてパーツから読み取れることなどがあるのか、検討すべき点であると思われた。