非城識人ノート

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天野真志・後藤真編『地域歴史文化継承ガイドブック 付・全国資料ネット総覧』(文学通信、2022年)

天野真志・後藤真編『地域歴史文化継承ガイドブック 付・全国資料ネット総覧』(文学通信、2022年)、読了。地域に伝わる歴史的な資料やその保存・継承の方法を紹介する1冊。

天野真志・後藤真編『地域歴史文化継承ガイドブック 付・全国資料ネット総覧』(文学通信、2022年)

概要と感想

本書は、地域社会に眠る古文書や美術資料、民具・公文書・震災資料などの歴史的な資料を紹介し、その保存・活用方法の一例を解説している。また巻末には全国の資料ネットワークの概要と活動を紹介しており、地域において歴史的な資料をどのような人たちがどのような保存活動を行っているのか、その具体例が示されている。
前半の歴史文学資料の基礎知識では前述した様々な種類の資料の特徴と保存方法が述べられている。一口に歴史文化資料といっても、その種類は多様であり、それぞれに適した保存方法がある。しかし、資料保存に携わる側は、必ずしも全ての資料において専門的知識を有するわけではない。しかし、資料保全の現場では自分の専門分野の資料のみを優先的に保全するわけにもいかない。そのため、それぞれの資料における保全の基礎知識や応急処置方法の認知は必要である。本書の前半はそうした実践的な問題に対応するための様々な情報が紹介されている。特に、紙製地域資料の手当ての技術は参考になる。
後半では全国資料ネットの設立経緯や活動状況が紹介される。資料ネットとは、地域を主体として資料保存活動を最前線で担うネットワークであり、1995年の阪神・淡路大震災を契機に誕生し、その後各地で自然災害が多発する中で、全国にその活動が拡大している。各地の資料ネットの活動状況を通読すると、地域の歴史的な資料を保全する人々の繋がりの大切さや地道な努力が垣間見れる。また、博物館や図書館などの資料保存活動拠点の職員だけでなく、地域の学生や住民がともに資料保全に携わることで、地域の歴史や文化財を見直すきっかけとなっていることや、未来の地域資料保全の人材を育てる場になっていることも注目される。各地の資料ネットによって設立経緯や活動内容は多種多様であるが、それぞれの事例から学ぶべきものは多く、読者の住む地域の資料保全に足りない視点・考え方・問題意識を提示する。特にこうした保存活動は、未指定文化財を対象としたものがほとんどであるが、こうした活動の中から当該地域の新しい歴史情報が得られるケースもある。
歴史を学び・守るという営みは一個人の歴史家の努力では決して成り立たない。歴史家だけでなく、たくさんの人々との繋がりの中で、歴史的な資料を保存していかなくてはならない。問題意識を持てば、どんな人でも歴史的資料を守る力になる。そんなことを考えさせられる1冊である。
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なお本書は、文学通信のHPから全文を無料ダウンロード可能である。


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