非城識人ノート

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岡寺良著『九州戦国城郭史 大名・国衆たちの築城記』(吉川弘文館歴史文化ライブラリー、2022年)

岡寺良著『九州戦国城郭史 大名・国衆たちの築城記』(吉川弘文館歴史文化ライブラリー、2022年)、読了。
九州の戦国史を主に城郭から読み解く一冊。

岡寺良著『九州戦国城郭史 大名・国衆たちの築城記』(吉川弘文館歴史文化ライブラリー、2022年)

本書は、天文~永禄期から天正期にかけて(16世紀後半)の時期を中心に、九州の城郭の縄張などから戦国時代の様相を読み取るものである。本書を読んでいて特に印象に残ったのは、秋月氏を中心とする国衆たちの城郭である。秋月氏の城郭は、斜面地に複数の空堀を連続して構築した畝状空堀群を無数に配置したものが多い。畝状空堀群を有する城を分布に落とし込むと、秋月氏と長野氏などの同盟勢力の勢力圏と重なる。戦国大名の築城の特徴を議論される機会は多いが、秋月氏のように国衆で城郭構造の特徴を読み取れるケースは稀有なのではないかと感じた。秋月氏は、九州戦国史を語る上でも重要なキーマンであり、本書の裏の主人公のようでもある。
また、竜造寺氏の城郭など、今では城郭構造がわからなくなっている城の範囲・構造も解明しようと試みている。筑後の平地城館は、クリークで囲まれた曲輪が集まった形であり、どこまでが城館の範囲でどこが中心なのかが不明確であるという。南九州では、郡郭式の特徴をもつ城郭もとりあげられており、九州独特の城の特色を楽しめた。
もちろん本書では、発掘調査の成果についても詳しく取り上げられている。大友氏の本拠豊後府内を中心に、貿易陶磁器が出土しており、国際色豊かな独自の文化を形成していたことがうかがえる。また天草諸島の城郭は防御性を重視していない構造にも関わらず、明・ベトナム・タイなどからの輸入陶磁器が出土している。こうした城も九州ならではの海の勢力の城といえる。城の機能は縄張調査による表面観察のみではすべてを理解できないことを示す良い例ともいうことができる。
以上のように、本書は九州戦国史について城郭と結びつけながら叙述した一冊となっている。九州の戦国時代は注目される機会が少ないが、本書は九州における戦国時代と城郭の魅力をふんだんに紹介している。

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