非城識人ノート

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盛本昌広著『鎌倉武士と横浜 市域と周辺の荘園・郷村・寺社』(有隣新書、2021年)

盛本昌広著『鎌倉武士と横浜 市域と周辺の荘園・郷村・寺社』(有隣新書、2021年)、読了。鎌倉時代における横浜市域に関係する武士たちの消長を追い、鎌倉幕府横浜市域の関係を考察する1冊。

盛本昌広著『鎌倉武士と横浜 市域と周辺の荘園・郷村・寺社』(有隣新書、2021年)

概要と感想

本書は現在の横浜市域における鎌倉時代の武士団の動向を叙述したものである。横浜市は、鎌倉幕府が所在した鎌倉市に隣接しており、畠山重忠二俣川合戦や、金沢文庫称名寺が所在するなど、鎌倉武士の活躍がみられる土地である。そうした市域に院政期のころより分布する荘園や、そこで勢力を築き上げた武士団、そして彼らに関わる寺社などを、鎌倉時代の流れに即して紹介している。例えば、現在の東横線綱島駅が所在する綱島を本拠としていた綱島氏という御家人も登場する。普段何気なく乗り降りしている駅にも鎌倉武士がいたことがわかると、鎌倉時代が身近に感じられるだろう。
曽我物語』には、五郎丸という小舎人童が登場する。鎌倉武士で「五郎」を名乗る者は、大力や相撲との関連が指摘される。この五郎丸も大力を買われて源頼朝の小舎人童になったと考えられ、現在は西区に墓所があるという。元ラグビー選手の五郎丸氏を想起させられるような話だ。
このように本書では、横浜ご当地の鎌倉武士を紹介するとともに、横浜の地形・水系とも関連付けているため、当地の住人であれば、横浜の鎌倉時代をとても身近に感じられる内容となっているだろう。また、当地に住んでいなくとも横浜で鎌倉時代めぐりをし出かけたくなる。本書は、私たちが住む周辺にも鎌倉時代があったことを感じさせる1冊となっている。筆者はあとがきで次のように本書を締めくくっている。

以上、自分の経験や感じた事を書いてきたが、これ自体も一種の歴史資料と言え、本書の記述のバックボーンになっている。歴史資料は文献史料が中心であり、本書でもこれが基本だが、板碑・五輪塔などの石造物、発掘された物、伝承、水系や地形・地質、景観、自己の経験などの様々な資料を参照することが必要不可欠である。特に地域の歴史を書く上では自己の経験や日常的な風景も重要な資料となり、それらを材料にして歴史を考えることで、経験や風景に新たな認識をフィールドバックすることもできる。ある意味では歴史は自己との対話である。(P.222~223)

歴史は史料の中で起きているものではない。私たちが暮らす土地に、歩く道路に確かに今も息づいている。そこで生活した者にしかわからない風土がある。その土地で歩いたり暮らしたりして感じたことは、歴史を考える上でのある種の臭覚となっていくのだ。

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