非城識人ノート

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西田友広編『ビギナーズ・クラシックス日本の古典 吾妻鏡』(角川文庫、2021年)

西田友広編『ビギナーズ・クラシックス日本の古典 吾妻鏡』(角川文庫、2021年)、読了。
鎌村幕府の歴史書吾妻鏡』において、歴史上重要な事件や出来事を中心に各年から一つ以上の記事を採録した『吾妻鏡』の入門書的な一冊。

西田友広編『ビギナーズ・クラシックス日本の古典 吾妻鏡』(角川文庫、2021年)

概要と感想

 『吾妻鏡』は、以仁王の令旨・頼朝挙兵の治承4年(1180)から6代目将軍宗尊親王が京都に送還された文永3年(1266)までの、鎌倉幕府の出来事を記した歴史書である。本書は前述のごとく、その『吾妻鏡』の記事の中から歴史上重要な事件・出来事をピックアップして採録した、いわば『吾妻鏡』の“ダイジェスト版”である。
 ブログ主は、大学時代に『吾妻鏡』の講読会に参加していた関係で『吾妻鏡』に触れる機会があった。講読会では最初の以仁王の令旨から講読を開始したが、卒業までに治承4年を読み切ることはできなかった。『吾妻鏡』はそれほどに長大で読みごたえのある史料なのだが、その大まかな全貌を把握するのは骨が折れるものである。そこで本書は『吾妻鏡』の大まかな流れを知る入門書としてとても読みやすい。
 さらに採録された記事ごとに、返り点つき原文・書き下し文・現代語訳・解説が付されており、変体漢文を読むテキストとしても使用できる。ブログ主は実際に、返り点付き原文をまず音読した後、書き下し文も音読しながら自分の読みを確認し、最後に現代語訳や解説を読んで内容理解を深めるという方法で読み進めた。日本中世史における史料を読む際は、変体漢文に慣れることが重要である。当時の変体漢文は「吾妻鏡体」とも称されており、『吾妻鏡』を読むことで日本中世の史料を読む練習にもなるのである。
 また本書の解説は、近年の学説を踏まえたものとなっており、鎌倉時代の時代史を学ぶ上でもとても参考になる。加えて巻末解説では、『吾妻鏡』の成立や受容・諸本研究の概要が解説されており、『吾妻鏡』の史料論を知る入門書ともなっている。
 以上のように本書は様々な読み方が可能であり、鎌倉幕府の歴史を楽しめる一冊になっているといえよう。現在放送中の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」でも『吾妻鏡』の記述に基づいた脚本・演出がなされており、ドラマの公式Twitterではドラマ本編に関連した『吾妻鏡』の記事を紹介している。『吾妻鏡』の記述を史実と評価するか否かの問題は、本書の解説や巻末解説に譲るが、本書を読むと『吾妻鏡』での書きぶりとドラマでの描かれ方を比較して、創作の妙を楽しむこともできるのである。

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