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黒田基樹著『国衆 戦国時代のもう一つの主役』(平凡社新書、2022年)

黒田基樹著『国衆 戦国時代のもう一つの主役』(平凡社新書、2022年)、読了。
著者が長年の戦国史研究において構築した「国衆」という概念を一般向けに解説した一冊。

黒田基樹著『国衆 戦国時代のもう一つの主役』(平凡社新書、2022年)

概要と感想

 本書は、戦国時代の列島各地に存在した、「国衆」という領域国家の性格について、本格的に解説したものである。「国衆」という概念用語は、2016年の大河ドラマ真田丸」にて使用され始めてから、研究者だけでなく歴史好き界隈の間でも認知されるようになった。翌2017年の「おんな城主直虎」も遠江の国衆井伊家を舞台としていただけに、この数年で「国衆」概念は定着するようになった。
 一方で、領域国家としての国衆の実態を解明するには、北条氏・武田氏といった戦国大名よりも関係史料が少ないため、戦国大名との違いはどこにあるかという点で、「国衆」概念の内容については検討の余地は残っている。そのため本書では、領国統治において、戦国大名と国衆は基本的に同質であるとの前提に立った上で、国衆の成立過程や戦国大名との関係、国衆から戦国大名化した事例を解説している。
 一読して印象的だったのは以下の3点である。
 1点目は、「国衆」と領主の違いを、領域支配であるか個別の所領支配であるかという点で判断することである。「戦国領主」とも称されるような単なる「領主」を所領から年貢・公事を収取する存在とする一方、戦国大名や国衆が行う領域支配は、自らの権限で領域のすべての家臣や村に「国役」を賦課する存在とする。この指標は、「国衆」概念を考える上で重要である。
 2点目は、国衆たちが領域支配を行う権力として成立したターニングポイントを明確にする作業である。本書では信濃高梨家や同国海野家・上野岩松家の事例を挙げて、それぞれの通史を整理した上で一円的な領国を形成する=国衆成立のタイミングを見出している。国衆を研究する上で、その歴史的変遷を追う基本的作業の重要性が示されている。
 3点目は、国衆から戦国大名化した事例は少ない点である。本書では毛利氏・徳川氏・長宗我部氏・竜造寺氏の事例を挙げている。一般的に戦国時代は下剋上の時代と称されるが、国衆から戦国大名化を遂げた事例は案外少なく、室町時代の守護家・「大名」家の系譜を引く存在は多い。これは「国衆」という概念が用いられたために見えてきた事象であり、単に下剋上といっても、その実態・性格をさらに検討する必要を感じた。(※この点に関しては著者は講談社現代新書にて『下剋上』を刊行しているがブログ主は未読。)
 このように本書では、著者が提起した「国衆」概念によって見えてきた戦国時代の権力構造の姿が垣間見れる。前述したように、国衆の関係史料は少ないため、戦国大名と同質の権力なのかという点でさらなる検討は必要であるが、「国衆」概念の提起を足掛かりとして戦国時代の解像度が上がっていくものと思われる。

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