非城識人ノート

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伊藤俊一著『荘園 墾田永年私財法から応仁の乱まで』(中公新書、2021年)

伊藤俊一著『荘園 墾田永年私財法から応仁の乱まで』(中公新書、2021年)、読了。
日本の中世社会の根幹を形成した荘園制について、荘園研究の成果を反映して、誕生から解体までの約750年の歴史を叙述する一冊。

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伊藤俊一著『荘園 墾田永年私財法から応仁の乱まで』(中公新書、2021年)

概要と感想

本書では古代に萌芽し、中世の土地制度の根幹となった荘園を、通時的に叙述する。
本書の中で

独立した小世界という究極の地方分権でありながら、小世界の一つ一つが中央に直結しているという、なんとも不思議な体制が成立したのだ(ⅰ~ⅱページ)

と述べられているように、荘園制のある社会は現代では馴染みのないものであるが、日本の原風景や地名などにその痕跡が残されている。
また中世特有の職の重層性から一円化への流れがとても分かりやすくまとめられていた。

日本の荘園の歴史、特に院政期以降の中世荘園(領域型荘園)の歴史は、小さな地域の自治権を最大に、国家や地方政府の役割を最小にした場合、何が起きるかという四〇〇年にわたる社会実験と言えるかもしれない。(262ページ)

この一文が特に印象に残った。荘園を考えることは、国家のかたちを考えることに繋がる。

日本史の教科書では、荘園が土地制度の説明がなされる中で触れられることが多いが、本書では荘園の変遷が日本史の流れの中に位置づけなおして叙述されているため、教科書の簡潔な説明からは読み取れなかった、荘園の実態を知ることができた。
本書を読むと、高校日本史の知識・用語と、日本史研究で扱われる専門用語とをリンクして理解できる。大学で中世史を学ぶ際の入門書・概説書としても、読みやすいように感じた。
ブログ主もまだ一読したのみであるので、今後さらに再読していきたい。

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