非城識人ノート

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末木文美士著『中世の神と仏』(山川出版社日本史リブレット、2003年)

末木文美士著『中世の神と仏』(山川出版社日本史リブレット、2003年)、読了。日本中世史における神道論の動向を追いながら、神と仏、神道と仏教が相互に影響した関係性を叙述する1冊。

末木文美士著『中世の神と仏』(山川出版社日本史リブレット、2003年)

概要と感想

 本書は、一般には知名度の低い、日本中世の神道について、その教義的な体系が形成される動向を簡潔に叙述したものである。明治時代に行われた神仏分離以前、日本の宗教は、神仏習合の状態であったことは日本史の教科書でも習う事項であるが、その神仏習合がもっともダイナミックに展開したのが中世であった。本書ではこの展開の面白さを学ばせられる。
 本書では、まず古代までの神道の概念について解説される。神仏習合といっても、神と仏がすべて融合しているわけではなく、それぞれの役割を果たすことで互いを補い合っているという関係にあった。やがて仏教の影響により、神道にも教義的な体系が形成され始める。本書では、主に山王神道伊勢神道両部神道について紹介しており、本地垂迹理論の形成から、神道を優位とする考え方へ発展していく様子を解説する。
 特に興味深かったのは、中世神話が生まれてくる部分であった。

神道が仏教から自立しようとしたとき、着目したのは、ヒンドゥー教であり道教であった。仏教という世界宗教と関係しながらも。そこに収斂しきれないアジアの土着宗教の共通性を、いち早く中世神道の形成者たちは感づいていたのである。仏教からみれば外道にあたる宗教への着目が新しい創造の道を開いてくれる。それが中世神話と呼ばれるものであり、記紀神話とまったく異なった豊かな物語世界へと導いてくれる。(p.65)

 ここで驚かされるのが、アジアの土着宗教にまで視野を広げて、神道を位置づけようとした動きである。これは仏教に対する深い学び無しには、神道理論の形成はならなかったことがわかる。
 その後、南北朝時代になると、神道天皇の関係が定まり始め、神話から歴史への接続を模索し始める。そして、中世の末期には吉田神道によって、神道の統合が図られる。あたかも純粋に受け継がれてきたようにみえる神道も、仏教や歴史の変遷に影響されて形成された産物だったのだ。
 このように本書は、日本史を学ぶ上で一番難解な中世の宗教史を興味深く知ることができる。本書を足がかりに中世の宗教史を学んでいきたい。

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