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三鬼清一郎著『大御所徳川家康 幕藩体制はいかに確立したか』(中公新書、2019年)

三鬼清一郎著『大御所徳川家康 幕藩体制はいかに確立したか』(中公新書、2019年)、読了。江戸幕府を開き、大坂の陣豊臣氏を滅亡に追い込むまでの、家康の大御所政治とその功績を叙述する1冊。

三鬼清一郎著『大御所徳川家康 幕藩体制はいかに確立したか』(中公新書、2019年)

概要と感想

 本書は題名のとおり、徳川家康が大御所と呼ばれた時代に約260年続いた幕藩体制の基礎をどのように作り上げたかを描く。そのため、本書は編年で家康の事績を追うのではなく、天下普請や御三家の成立、外交政策大坂の陣などの幕藩体制を確立するトピックを取り上げている。そのため家康の功績のみならず、初期江戸幕府の状況・動向についても述べられており、家康の大御所政治というよりも、必ずしも盤石でなかった初期江戸幕府の姿を叙述しているといってよい。一方で豊臣政権との比較も随所で行っており、家康の政権を相対的評価をしている。
 本書の特色としては、章の終わりごとに、読書案内のコラムを載せている点である。山本周五郎『樅ノ木は残った』や遠藤周作『沈黙』などの名作から、岸宏子『江戸・管理職哀歌 藤堂藩伊賀城代家老の日誌より』といった歴史本まで幅広く紹介されており、どれも江戸時代初期の時代観を感じられる名著である。今後是非読んでみたいものばかりだ。司馬遼太郎『覇王の家』森銑三徳川家康』や松本清張徳川家康』など、家康についての小説も紹介されており、時代の変遷や著者によって異なる家康のイメージについても述べられている。
 本文の内容としては、対馬を中心とした日本と朝鮮の外交の実態や、「惣無事」に対する著者の考え方が明示されている点を興味深く読んだ。また、家康最晩年の隠居所としては駿河国泉頭が候補にあったことは知られるが、計画が中止されたのち、遠江国中泉も隠居所の候補であったという指摘も興味深い。
 本書は、近世初期を理解するうえで重要なトピックを、家康という人物を通して読者に語りかける。

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