非城識人ノート

日本の城、中世史、読書、思いつき…など

本多隆成著『定本徳川家康』(吉川弘文館、2010年)

本多隆成著『定本徳川家康』(吉川弘文館、2010年)、読了。徳川家康の生涯について、その大半を過ごした「東海地域」にも着目しつつ、一次史料に基づき出版当時の新説や研究史も端的にまとめて、事績を明らかにする一冊。

本多隆成著『定本徳川家康』(吉川弘文館、2010年)

概要と感想

本書の「はじめに」において、著者は次のように述べている。

研究というものは、批判と反批判とを通じて、一歩一歩進んでいくものである。通説を覆すような新しい概説も、そのような研究史を踏まえたものでなければ、学問的に裏打ちされた説得力をもたない。現代の出来事に引き付けた勝手な解釈や、憶説に基づく各種家康論が横行しているが、それらはもとより学問的な批判に耐えるものではなく、論外である。

ここに本書の叙述方針が明示されている上に、著者の覚悟も伝わってくるようだ。

著者は本書出版の9年後に『徳川家康と武田氏』を著しているが、その中でも研究史と向き合う重要性を説いており、一貫した研究姿勢を感じられる。
oshiroetcetera.hatenadiary.com

さて本書の特色は、「はじめに」で著者が述べられているように、一次史料に基づき研究史を踏まえている点と、「東海地域」という視角を重視している点の2つが挙げられるが、領国支配に関する政策、特に領国で行った検地に関する概説が充実している。家康の五カ国領有時代における農村支配・総検地の実施についてや、慶長期の総検地についての解説が丁寧で簡潔である。また大御所時代における駿府城の普請についても詳述されている。徳川家康の生涯を記した概説書は多いが、領国支配について行った政策を解説したものは意外と少ない。本多正信伊奈忠次をはじめ、本多正純大久保長安安藤直次成瀬正成・村越直吉といった大御所時代の奉行衆らなど、領国支配における政策遂行にあたって活躍した家臣たちの動向を本書では紹介している。
このように本書では、徳川家康の生涯を追う中で、家康個人の動向のほかにも家康が行った支配政策についても叙述している。家康に関する様々な論点・研究史もまとめられており、家康研究の基本となる一冊として、十数年たった現在でも色あせないものである。

▶「本ブログのトリセツ」へ