非城識人ノート

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齋藤慎一著『江戸 平安時代から家康の建設へ』(中公新書、2021年)

齋藤慎一著『江戸 平安時代から家康の建設へ』(中公新書、2021年)読了。
「江戸の変遷を中世から連続して考える」という視点から家康の江戸入城と城下建設を再評価する一冊。

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齋藤慎一著『江戸 平安時代から家康の建設へ』(中公新書、2021年)

概要と感想

 本書は、全体として「家康が入城した頃の江戸城はどのようだったか」という問題意識から、江戸の建設を叙述する。

中世の江戸は寒村だったか

 前半は、家康が入府した頃やそれ以前の江戸の様相について、平安時代末まで歴史を遡り、残された文献史料や東京の考古遺跡から、中世江戸の景観を復元する。その視点として、中世江戸の中心となった「高橋」「大橋」という2つの橋の変遷を取り上げ、交通路・幹線道の復元や、江戸氏や太田道灌が拠点とした中世江戸城の姿を最大限に明らかにしている。また、北条氏領国期における江戸城古河公方の関わりについても述べており、中世江戸の歴史的位置について考察を行っている。

家康期の江戸城の姿は

 そして後半は、数少ない史料や複数の「慶長江戸図」の比較検討から、家康が改修した当時の江戸城とその城下を復元する。家康入府以降の江戸は、町場や寺社の移転、平川の流路や幹線道・本丸登城路の変更などが行われた。その過程を、徳川入封段階・御新城普請段階・関ヶ原合戦前後段階・御新城西の丸化段階に整理し、江戸が段階的に拡張した様相を叙述する。また、城館の構成要素の一つである「馬出」に着目して、慶長期の江戸城と他の城館との比較を行い、当時の築城の流行の中に江戸城を位置づけている。

「連続して考えるという視点」

 本書の特徴は、あとがきにも記されるように「江戸の変遷を中世から連続して考える」という筆者の視点から語られることである。従来、大都市江戸・東京の建設は、家康の関東入封を起点に語られることが多いため、家康が江戸を一代で1から築き上げたようなイメージがなされる。しかし、家康入封以前から江戸城や城下の町場は存在していた。本書では、この中世江戸城やその周辺の町場・交通路を、残された史料・遺跡の発掘状況から可能な限りの復元を試みている。そのうえで、家康入封後に行われた町場・幹線道・平川の流路の変更を分析している。そのため、江戸に入城した家康が、中世江戸から継承したもの・変更したものを段階を追って明確にし、家康が江戸の発展にもたらした業績を正確に把握している。家康の業績を、現代の東京につながる近世の大都市江戸の始点として過大に評価するのではなく、中世から近世へ連続し転換する江戸の変化の中で、家康の業績を相対的に位置づける。本書でも述べられているが、こうした筆者の視点は、江戸幕府の成立時期を再考するヒントにもなりそうである。
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 本書とほぼ同時期に刊行された加藤理文著『家康と家臣団の城』(角川選書)では、家康とその家臣団の城を巨視的・共時的に俯瞰し、その総体の叙述を試みていた。一方で本書の叙述は、江戸という地点を通時的な視点から検討し、家康による築城・城下建設の画期を浮かび上がらせたものであった。様々な方法で家康の城の特徴が検討されているが、一つの城館に着目して中世から近世への連続として考えることの重要性を、本書は物語っている。


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