非城識人ノート

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国立歴史民俗博物館監修・「性差の日本史」展示プロジェクト編『新書版 性差の日本史』(集英社インターナショナル新書、2021年)

国立歴史民俗博物館監修・「性差の日本史」展示プロジェクト編『新書版 性差の日本史』(集英社インターナショナル新書、2021年)、読了。2020年秋、国立歴史民俗博物館にて開催された企画展示「性差の日本史」の見どころを図版とともに紹介する1冊。

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国立歴史民俗博物館監修・「性差の日本史」展示プロジェクト編『新書版 性差の日本史』(集英社インターナショナル新書、2021年)

概要と感想

昨年、歴博にて行われた「性差の日本史」展は、ジェンダーの視点から日本の歴史を見直した展示として話題となった。ブログ主は拝観できなかったが、終了後も拝観しなかったことを後悔していたため、本書を通読した。
本書では、日本史における女性の役割を中心に、男性との区別が生まれた背景や、性の売買についての解説を、展示物の紹介を通じて叙述されている。図版が多く、簡潔な文章であるため、気軽に読むことができた。
古代や中世では、采女や女房といった、政治に関わった女性たちや、後家尼として家政を担った北条政子寿桂尼など、女性が果たした役割が述べられている。こうした政治に関わる女性としては、近世には大奥の女性たちが挙げられるが、大奥の空間でも男性役人が存在していたことが意外だった。早乙女なども挙げられていたが、女性の役割と思われているものでも、男性が関与している事例があることは、新たな視点であった。
また、性売買の歴史は、日本史の教科書でも扱われないものであり、新鮮に、そして深刻に読み込んだ。特に近代になって、娼妓が「自由意志」にもとづいて性を売るものとされたこと、社会からなくならない「身売り」の実態など、現代に通じる問題点も扱われていた。
本書では、海外では博物館がジェンダーをテーマとして取り上げることは当たり前だという、国際研究集会での様相も述べられており、驚きがあった。SDGsも叫ばれる現在であるが、こうした社会の問題点や多様性を目指して、博物館ができることは何か、博物館の展示を通して来館者に訴えること、歴史の展示を通して現在を相対化し・考え直す重要性など、博物館の役割についても改めて考え直された。

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