非城識人ノート

日本の城、中世史、読書、思いつき…など

実相 忍びの者@埼玉県立嵐山史跡の博物館

先日、埼玉県立嵐山史跡の博物館にて行われていた企画展「実相 忍びの者」を拝観しました。

f:id:sagisaka6656:20211202220934j:plain
埼玉県立嵐山史跡の博物館

 本展は、忍者・忍びが最も活躍した戦国時代の一次史料を集めてその役割や性状を整理し、彼らの活躍の具体的な姿を明らかにする展示でした。近年、伊賀市甲賀市青森大学三重大学などでも忍びの研究が盛んになっており、実際の同時代史料に忍びがどのように現れるのか、文字史料だけでなく考古遺物からも推測する意欲的な展示でした。
 アプローチの部分では、忍たま乱太郎NARUTO仮面の忍者赤影などの忍者漫画を展示し、現在に定着している忍者のイメージについて、来館者の興味を惹きつける展示の工夫がなされていました。その後、江戸時代の書物や漫画、軍記物などから忍者のイメージを遡っていきます。また忍術伝書や忍びが用いた道具である忍器を展示し、江戸時代までの忍術についても解説している。
 後半では、実際の戦国時代の文書から、忍びの存在を読み取っていきます。主に北条氏や伊達氏・武田氏といった戦国大名関係の文書に登場する「草」「夜懸」「伏兵」など、混同しやすい概念との関係を考察し、「忍」「すつぱ」と呼ばれた忍びの者たちの活動を明らかにしようとしていました。また忍び実際に活躍した、葛西城忍び乗取作戦・羽生城忍び合戦などの様相を、当時の関東戦国史のとともに解説しており、戦国時代の忍者のリアルな活動を窺うことができました。
 そして、本展で興味深かった資料として、戦国時代当時の忍びが使用していたと考えられる考古遺物も展示されていたことです。手裏剣のルーツとなったとみられる石製や陶製の平つぶてや、八王子城で発掘された土製の撒き菱など、江戸時代以降に知られるようになる忍器の祖型とみられる遺物を見ることができ、戦国の忍びをよりリアルに感じることができました。
 本展は、忍者・忍びという一般的にも著名な存在について、その実態をモノから明らかにしようとしたものであり、詳細な解説がなされていました。一般的なイメージよりも実際の忍びはより複雑で理解しがたい一面もありますが、言葉を尽くした解説は読みごたえがありました。また、一般的なイメージとは異なる戦国のリアルな忍びの姿を想像する手がかりとして、実際の遺物を展示するなど、工夫が見られた点がよかったです。
 本展の図録も、詳細な解説や文書の釈文がふされており、解説書としても価値のあるものとなっていました。

f:id:sagisaka6656:20211202221032j:plain
本展の図録


▶「本ブログのトリセツ」へ